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ダイナミックレンジ拡大で表現レベルも拡張

Netflixが『シドニアの騎士』HDR版配信開始。東芝の4K有機ELレグザで視聴

公開日 2017/01/20 20:46 編集部:風間雄介
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Netflixは本日、ポリゴン・ピクチュアズが制作したアニメ『シドニアの騎士』のHDR版が今年1月1日に配信開始したことを記念した上映・トークイベントを行った。

今回のデモに使われたテレビは、東芝が3月上旬に発売する4K有機ELテレビ“REGZA”「X910シリーズ」(関連ニュース)だ。65型の「65X910」と55型の「55X910」があるが、視聴には65X910が使われた。

なお東芝は、この製品の発売を記念し、X910シリーズを購入するとNetflixのメンバーシップ6ヶ月分をプレゼントするキャンペーンを実施する。対象者はX910シリーズを購入のうえ、5月15日までにNetflixの視聴登録を行ったユーザー。詳細はX910シリーズが発売される3月上旬までに、東芝のウェブサイトに掲載される。

「ダイナミックレンジが広がると表現のレベルも拡張できる」

イベントでは、「有機ELテレビで見るHDR」と題したトークショーが行われた。『シドニアの騎士』の同じシーンをHDRとSDRで同時再生し、それを比較しながら、コンテンツ制作者、テレビ技術者、そしてNetflixのキーマンが語りあうという趣向だった。

トークセッションの模様

『シドニアの騎士』はもともとSDRでリリースされたタイトル。Netflix(株)メディアエンジニアリング&パートナーシップの 宮川遙氏は、「日本だけでなく世界でも人気のあるコンテンツを、今回HDR化した。テレビシリーズのHDR化はおそらく初めてではないか」と説明する。

Netflix(株)メディアエンジニアリング&パートナーシップの 宮川遙氏

HDRのグレーディングについては、16bitのTIFF連番ファイルを米国に送り、ロサンゼルスにあるプロダクションで作業を行ったという。HDRグレーディングは2016年の早い段階で行ったとのことで、当時はドルビービジョンに対応したグレーディングシステムが日本になかったことから、米国で作業したとのこと。ちなみにプロダクションから納品されたデータはIMFという形式で、4K、12bit、DCI P3で納品されたという。

トークセッションは、コンテンツ制作側からは(株)ポリゴン・ピクチュアズから『シドニアの騎士』プロデューサーの石丸健二氏、同作品 副監督の吉平“Tady”直弘氏が出席した。

さらにテレビメーカー側からは(株)東芝ソリューション開発センター オーディオ&ビジュアル技術開発部 グループ長の山内日美生氏が出席。Netflixからは前述の宮川遙氏がトークに参加した。

まずはHDRとSDRで映像がどの程度変わるか、写真でご覧頂こう。実際に目で見た印象では、さらに差が大きかったことを付け加えておきたい。写真はすべて左がHDR、右がSDRだ。

HDRでは色域が広く、より鮮やかな色が再現できる

足下の光、靴の周りのハイライトもHDRでは的確に表現


暗部から明部までをすっきりと表現するHDR。SDRではのっぺりした印象になってしまう

青い光りの明るさが異なる


HDRとSDRの違いがよく現れたシーン。目のハイライトがあることでキャラクターの魅力もさらに増す

HDRではヘルメットのハイライトや計器類の輝きが際立つ

自宅でもREGZAを使っているという石丸氏は、最初にHDR化されたコンテンツを見たときの印象を振り返る。

「Netflixさんからお声がけいただき、HDRコンテンツを作って頂いた。TIFFの連番ファイルを高解像度で送ったのだが、結果がどうなるかわからなかった。だが実際に作ったものを見たら、別のコンテンツじゃないか、と思うほど情報量が多くて。ディテールの多さが第一印象だった」。

(株)ポリゴン・ピクチュアズから『シドニアの騎士』プロデューサーの石丸健二氏

副監督の吉平氏も「これまでは白飛び、黒つぶれしていたものが全部見える。これまで中間階調がなかなか描けなかったのだが、それが再現できるようになった。作りたかった画に近づいてきた」と述べ、制作者の自由度を高める技術としてHDRを高く評価した。

『シドニアの騎士』副監督の吉平“Tady”直弘氏

山内氏はテレビの技術開発者として「映像エンジンと画作り、コンテンツ本来の美しさをいかに引き出すかに注力した」と述べ、シドニアの騎士のHDR化については「HDRでは、星一つ一つの明るさが違うことまでわかる。トンネルから出撃するシーンも、ディテールが本当に細かく描かれている」と、その効果をアピールした。

(株)東芝ソリューション開発センター オーディオ&ビジュアル技術開発部 グループ長の山内日美生氏

石丸氏は今後の課題も指摘。「HDR化するということは情報量が増えるということ。その情報量を使い切らないともったいない、見て頂く方の期待値に届かないということもあるので、そのあたりを考えていかないと」。

吉平氏が話を引き取り「表現の幅を広げていけるというのはワクワクする。ダイナミックレンジが広がるというのは、表現のレベルも拡張できるということ。プリプロの段階から、照明効果を細かく意識して作ることができる」とクリエーターならではの視点でコメントした。

さらに吉平氏は「これまではディスプレイの限界を考えて、ある程度遠慮して作っていた。だがこれからは遠慮しなくてもよい、そんな時代が来るんだな、と」とも述べ、感慨深げな様子だった。

なお後述する次回作『ブラム』については、ワークフローも刷新すると吉平氏は紹介した。「データがクリップアウトしないよう、社内のデータラインもすべて考え直し、HDRに耐えうるように作っている」。詳細はまだ明らかにされなかったが、今後の発表が楽しみだ。

東芝の山内氏は、表示デバイスとしての有機ELのポテンシャルもアピールした。「有機ELは黒を黒として表現できるし、一方でピーク輝度も800NIT出る。コントラスト比は無限に近く、いままで我慢しなければならなかったところも、我慢しなくて良くなる」。

Netflixの宮川氏は色についても言及し、「HDRコンテンツは明部と暗部だけでなく、色の表現力も高まっている。SDRコンテンツはBT.709という色域だが、HDRコンテンツはより広いDCI P3を使っている。だから色の表現力が高まっている」と付け加えた。

石丸氏はさらに、「一番良い映像が見られる場所は、劇場ではなく家庭になるのかもしれない」と感想を述べ、「一般消費者向けのテレビで、HDRのような技術が見られるということは素晴らしいこと」と語った。

続々と増えるHDRコンテンツ。ついにアニメも登場

イベントでは冒頭、Netflix(株)代表取締役社長のグレッグ・ピーターズ氏があいさつ。同社サービスの最新の状況について説明した。

Netflix(株)代表取締役社長のグレッグ・ピーターズ氏

ピーターズ氏は、Netflixの会員数が全世界で9,300万人にまで増えたことを紹介。さらにコンテンツ面についても「オリジナルコンテンツを大量に作り出す世界有数の会社になった」とアピール。「今年は60億ドル以上の資金を投入していく」とした。

4Kコンテンツの状況についても言及。「数年前から4Kコンテンツを本格的に提供しているが、作品数をどんどん増やしており、いまでは世界最大の4Kコンテンツライブラリーを持つまでになった」とピーターズ氏は紹介した。

さらに同氏は、最近ではHDRについても注力しているとアピール。『マルコ・ポーロ』や『火花』など多彩な作品を用意しているが、今後もどんどん増やしていくべく、いまこの瞬間もNetflixのスタッフが力を入れている」と語った。

そしてピーターズ氏は「いよいよHDRのアニメも登場した」と述べ、今回のテーマである『シドニアの騎士』を紹介。「力強いビジュアルや空間設計が見どころで、HDRで見るのに格好のコンテンツだ。宇宙の黒、輝く星などを、HDRであればさらに忠実に再現できる」とした。

またピーターズ氏は今後の予定についても発表した。「『シドニアの騎士』ははじまりにすぎない。ポリゴン・ピクチュアズが『ブラム』という新シリーズを制作することが決定しており、今年半ばからNetflixで独占配信する」と紹介。『ブラム』は初めからHDRで制作することが決まっているとのことで、「私も待ちきれないほどワクワクしている」と述べた。

「最新の技術と最新のビデオフォーマットを作るには、他企業とのパートナーシップが必要となる」ともピーターズ氏は語り、「Netflixは長きにわたりテレビメーカーと関係を作ってきた」とメーカーとの緊密な関係をアピールした。

東芝が4K有機ELレグザで目指したのは「没入感への誘い」

東芝映像ソリューション(株)常務取締役の池田俊宏氏もあいさつした。Netflixについて「最先端の映像技術に前向きに取り組んでいる」と高く評価した後、今回のキャンペーン対象モデルであるX910シリーズについて紹介した。

東芝映像ソリューション(株)常務取締役の池田俊宏氏

池田氏は「我々が最も大切に考え、力を入れているのは『価値創造』。その価値をどう実現するのか、ということに力を入れてきた」と同社のポリシーを説明。今回の4K有機ELテレビ「X910」については、「『没入感への誘い』がコンセプトテーマ」と述べ、「HDRは人間の見たものをそのまま再現する技術だが、それを突き詰めた商品だ」とした。

さらに池田氏は、自身の体験も披露。同氏は以前、美術館でフェルメールの絵画「デルフトの眺望」を見たとき、あまりの感動に1時間程度、絵の前で立ちすくんでしまったのだという。「光りの表現がいかに人の心を捉えるか、自分でも体験した」と述べ、「我々の技術でどこまで没入感を感じて頂けるか。ぜひ我々の「ものづくりへの思い」を感じて欲しい」とした。

あえてエンコードが難しいコンテンツを制作

トークセッションにも参加したNetflix(株)メディアエンジニアリング&パートナーシップの 宮川遙氏は、Netflixの最新技術動向を紹介した。

宮川氏が「変わった取り組み」として紹介したのは、『MERIDIAN』というコンテンツ。Netflix上で一般ユーザーも見られるものだが、実は一般をターゲットにしたものではなく、同社の技術検証用に作ったものなのだという。

技術検証用に作ったというコンテンツ「Meridian」

「『MERIDIAN』は、エンコードしにくい様々な悪条件をあえて撮影したコンテンツだ。たとえば古いフィルムコンテンツを使ったり、新たに撮影したシーンも雨や嵐、煙などが多い。こういった難しいコンテンツをあえて作ることで技術力を磨いている」。ちなみにマスタリングは4K/HDR 60pで、ドルビービジョンの4,000nits をターゲットにグレーディングしたという。

なおこの『MERIDIAN』は、 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスにより、無償で提供しているのだという。「無償で提供するなんてもったいないと思われるかもしれないが、Netflixはシリコンバレーと密接な関係を持ち、オープンソースプロジェクトをほかにも多数行っている経緯がある。その考え方をハリウッドに持ち込んだようなもの」と宮川氏は説明した。

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