ガジェット【連載】佐野正弘のITインサイト 第125回
「1円スマホ」が影響か?ソフトバンクが大半のスマホの単体販売を取りやめたワケ
2019年の電気通信事業法改正で、通信サービスの継続を前提としたスマートフォンの値引きが禁止され、携帯電話回線の契約と端末販売の明確な分離が求められるようになった。それ以降、携帯各社はスマートフォンを自社だけでなく、他社回線を契約している人にも単体販売するようになったのだが、最近になってその単体販売を取り止める動きが出てきている。
その動きを起こしているのがソフトバンクであり、同社は今年8月頃から、「ソフトバンク」ブランドで一部を除くスマートフォンの単体販売を取りやめている。実際ソフトバンクのオンラインショップを確認すると、料金プラン契約とセットで購入する通常の方法を選べば全ての端末を選んで購入できるが、「機種のみを購入」を選ぶとiPhoneとiPad以外選べなくなっている。
2024年9月初頭の執筆時点では、ソフトバンクの動きに他社が追随する様子は見られない。だが携帯各社のビジネスを考慮するならば、この動きは今後他社へと広がる可能性も十分に考えられる。
一体なぜか。まず前知識として、そもそも携帯電話会社にとってスマートフォンの単体販売はデメリットしかなく、やりたくないものであることは知っておく必要があるだろう。
携帯電話会社の主要な収入源は、毎月支払われる携帯電話の通信料であり、スマートフォンの販売は事業的にそこまで大きいわけではない。一方で、消費者から見ると「どのスマホを買うか」が携帯電話会社選びにとても大きく影響してくる。そこで携帯電話会社は、重要な収入源である携帯電話の契約を増やすため、消費者の目につきやすいスマートフォンなどの端末を大幅に値引いて販売することに力を入れてきた歴史がある。
それゆえ、回線契約につながらないスマートフォンの単体販売は何のメリットもない。それどころか、値引きした端末を回線契約しない人に購入されてしまうとなれば、値引いた分だけ携帯各社が損をしてしまう。可能な限りやりたくないというのが、携帯各社の本音なのだ。
ただ、ちょうど10年前の2014年前後には、そのスマートフォンの値引きが競争激化によってあまりに先鋭化してしまい、他社から家族でまとめて乗り換えると、スマートフォンがタダで手に入る上に10万円を超えるキャッシュバックまでもらえるという、異常な市場環境となってしまっていた。この事態を重く見た総務省が、その後スマートフォンの値引き規制へと大きく舵を切り、結果として冒頭に触れた2019年の電気通信事業法改正がなされたのである。
この法改正によって生まれた新たな値引き手法が、2023年まで話題となっていた「1円スマホ」である。そしてこれが、今回ソフトバンクが端末単体販売取りやめた遠因にもなっている。
1円スマホは、スマートフォンのベースの値段を大幅に引き下げて誰でも安く買えるようにし、その上で他社から乗り換えた人に対し、当時の電気通信事業法で定められた、回線契約に紐づく上限2万2,000円までの値引きを適用することで激安販売を実現する手法。法律の上限となる2万2,000円を超える値引きを実現するには、携帯電話回線の契約者以外にも値引いて販売する必要があったことから、携帯電話会社が本来やりたくない端末の単体販売をする必要があったわけだ。
だが1円スマホは、単体販売で安くスマートフォンを買えることに目を付けた「転売ヤー」による買い占めが多発し社会問題化。これを総務省が問題視した結果、2023年末に再び電気通信事業法が一部改正されることとなった。
その結果、規制対象の携帯電話会社がスマートフォンを販売する場合、端末価格によって2万2,000円から4万4,000円という一律の値引き額上限が適用されることとなった。この措置によって単体販売であっても大幅値引きはできなくなったことから、1円スマホは撲滅に至ったのだが、その一方で、販売方法を問わず値引き額が一律になったことで、携帯各社が無理をしてスマートフォンを単体販売する必要もなくなってしまったのである。
しかも一連の規制による総務省の目的は、あくまで過剰な端末値引きを規制し、消費者が特定の携帯電話会社に縛られることなく乗り換えやすくすることで、携帯電話料金の引き下げ競争を加速させることにある。それゆえ実は電気通信事業法でも、端末の単体販売の義務化は求めていないのだ。
さらに言えば、最近では一連の法規制の影響でスマートフォンの販売が伸び悩んだことを受け、メーカー側が販路拡大のために、家電量販店やECサイトなどのオープン市場に向けた「SIMフリー」モデルの販売を積極化している。携帯電話会社以外から購入できるスマートフォンの選択肢が大幅に増えたことで、携帯各社が端末を単体販売する意義も薄れてきているのである。
そうした事情を総合的に判断した結果、ソフトバンクは多くのスマートフォンの単体販売を取りやめる措置に踏み切ったといえよう。同社は携帯4社の中で最もスマートフォンの値引き販売に力を入れており、1円スマホの規制後もソフトバンクブランドで、一定の条件を満たし12ヵ月で端末を返却する代わりに、スマートフォンを激安価格で利用できる「新トクするサポート(バリュー)」や、「新トクするサポート(プレミアム)」などの端末購入プログラムを相次いで提供している。
それだけに一層、回線契約につながらないにもかかわらず激安価格で端末を購入され、損失を生みかねない単体販売は、何が何でも防ぎたかったのではないだろうか。
では今後、NTTドコモやKDDI、そして楽天モバイルがこの動きに追随するのか?というと、各社ともに端末の単体販売はメリットがないだけに、その可能性は十分あり得るだろう。ただ一方で、すぐ追随する可能性は低いとも筆者は見ている。
なぜなら3社は、ソフトバンクほど積極的なスマートフォン価格引き下げ施策を打ち出しておらず、単体販売を規制する必然性が弱いというのが理由の1つ。そしてもう1つ大きな理由は総務省の存在だ。
ソフトバンクが端末の単体販売を取りやめたのはごく最近のことで、この動きを総務省がどう見ているのかは、現時点では分からない。それだけに3社は、総務省が一連の動きをどう評価するか様子を見た上で、追随するか否かを判断するのではないだろうか。アグレッシブなソフトバンクに総務省がどのような判断を下すのかが、今後の競争を見据える上でも大きな注目ポイントとなりそうだ。
■スマホ単体販売の取り止めに動くソフトバンク
その動きを起こしているのがソフトバンクであり、同社は今年8月頃から、「ソフトバンク」ブランドで一部を除くスマートフォンの単体販売を取りやめている。実際ソフトバンクのオンラインショップを確認すると、料金プラン契約とセットで購入する通常の方法を選べば全ての端末を選んで購入できるが、「機種のみを購入」を選ぶとiPhoneとiPad以外選べなくなっている。
2024年9月初頭の執筆時点では、ソフトバンクの動きに他社が追随する様子は見られない。だが携帯各社のビジネスを考慮するならば、この動きは今後他社へと広がる可能性も十分に考えられる。
一体なぜか。まず前知識として、そもそも携帯電話会社にとってスマートフォンの単体販売はデメリットしかなく、やりたくないものであることは知っておく必要があるだろう。
携帯電話会社の主要な収入源は、毎月支払われる携帯電話の通信料であり、スマートフォンの販売は事業的にそこまで大きいわけではない。一方で、消費者から見ると「どのスマホを買うか」が携帯電話会社選びにとても大きく影響してくる。そこで携帯電話会社は、重要な収入源である携帯電話の契約を増やすため、消費者の目につきやすいスマートフォンなどの端末を大幅に値引いて販売することに力を入れてきた歴史がある。
それゆえ、回線契約につながらないスマートフォンの単体販売は何のメリットもない。それどころか、値引きした端末を回線契約しない人に購入されてしまうとなれば、値引いた分だけ携帯各社が損をしてしまう。可能な限りやりたくないというのが、携帯各社の本音なのだ。
ただ、ちょうど10年前の2014年前後には、そのスマートフォンの値引きが競争激化によってあまりに先鋭化してしまい、他社から家族でまとめて乗り換えると、スマートフォンがタダで手に入る上に10万円を超えるキャッシュバックまでもらえるという、異常な市場環境となってしまっていた。この事態を重く見た総務省が、その後スマートフォンの値引き規制へと大きく舵を切り、結果として冒頭に触れた2019年の電気通信事業法改正がなされたのである。
この法改正によって生まれた新たな値引き手法が、2023年まで話題となっていた「1円スマホ」である。そしてこれが、今回ソフトバンクが端末単体販売取りやめた遠因にもなっている。
1円スマホは、スマートフォンのベースの値段を大幅に引き下げて誰でも安く買えるようにし、その上で他社から乗り換えた人に対し、当時の電気通信事業法で定められた、回線契約に紐づく上限2万2,000円までの値引きを適用することで激安販売を実現する手法。法律の上限となる2万2,000円を超える値引きを実現するには、携帯電話回線の契約者以外にも値引いて販売する必要があったことから、携帯電話会社が本来やりたくない端末の単体販売をする必要があったわけだ。
だが1円スマホは、単体販売で安くスマートフォンを買えることに目を付けた「転売ヤー」による買い占めが多発し社会問題化。これを総務省が問題視した結果、2023年末に再び電気通信事業法が一部改正されることとなった。
その結果、規制対象の携帯電話会社がスマートフォンを販売する場合、端末価格によって2万2,000円から4万4,000円という一律の値引き額上限が適用されることとなった。この措置によって単体販売であっても大幅値引きはできなくなったことから、1円スマホは撲滅に至ったのだが、その一方で、販売方法を問わず値引き額が一律になったことで、携帯各社が無理をしてスマートフォンを単体販売する必要もなくなってしまったのである。
しかも一連の規制による総務省の目的は、あくまで過剰な端末値引きを規制し、消費者が特定の携帯電話会社に縛られることなく乗り換えやすくすることで、携帯電話料金の引き下げ競争を加速させることにある。それゆえ実は電気通信事業法でも、端末の単体販売の義務化は求めていないのだ。
さらに言えば、最近では一連の法規制の影響でスマートフォンの販売が伸び悩んだことを受け、メーカー側が販路拡大のために、家電量販店やECサイトなどのオープン市場に向けた「SIMフリー」モデルの販売を積極化している。携帯電話会社以外から購入できるスマートフォンの選択肢が大幅に増えたことで、携帯各社が端末を単体販売する意義も薄れてきているのである。
そうした事情を総合的に判断した結果、ソフトバンクは多くのスマートフォンの単体販売を取りやめる措置に踏み切ったといえよう。同社は携帯4社の中で最もスマートフォンの値引き販売に力を入れており、1円スマホの規制後もソフトバンクブランドで、一定の条件を満たし12ヵ月で端末を返却する代わりに、スマートフォンを激安価格で利用できる「新トクするサポート(バリュー)」や、「新トクするサポート(プレミアム)」などの端末購入プログラムを相次いで提供している。
それだけに一層、回線契約につながらないにもかかわらず激安価格で端末を購入され、損失を生みかねない単体販売は、何が何でも防ぎたかったのではないだろうか。
では今後、NTTドコモやKDDI、そして楽天モバイルがこの動きに追随するのか?というと、各社ともに端末の単体販売はメリットがないだけに、その可能性は十分あり得るだろう。ただ一方で、すぐ追随する可能性は低いとも筆者は見ている。
なぜなら3社は、ソフトバンクほど積極的なスマートフォン価格引き下げ施策を打ち出しておらず、単体販売を規制する必然性が弱いというのが理由の1つ。そしてもう1つ大きな理由は総務省の存在だ。
ソフトバンクが端末の単体販売を取りやめたのはごく最近のことで、この動きを総務省がどう見ているのかは、現時点では分からない。それだけに3社は、総務省が一連の動きをどう評価するか様子を見た上で、追随するか否かを判断するのではないだろうか。アグレッシブなソフトバンクに総務省がどのような判断を下すのかが、今後の競争を見据える上でも大きな注目ポイントとなりそうだ。