【不定期連載】編集部・小澤の気まぐれミニレビュー
銅で作った「AK380 Copper」は通常版とどれだけ音がちがう? 専用アンプとの“合体”もテスト
編集部・小澤貴信が気まぐれでお届けするミニレビュー。今回はAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「AK380」について、Copperモデルと通常モデルを聴き比べてみた。
■AK380の純度99.9%銅ボディ採用モデルを聴く
Astell&Kern「AK380」は、ポータブルとしては群を抜く価格もさることながら、その他を圧倒する再生クオリティで、ハイエンド・ポータブルのひとつの指標になった。まさにジャンルを牽引するモデルである。このAK380に、純度99.9%の銅筐体を用いた限定バージョン「AK380 Copper」(関連ニュース)が登場した。
AK380 Copperと通常モデルのAK380の中身はまったく同じものだ。異なるのは筐体の素材だけ。しかし、筐体の素材や質量で音が変わるというのは、オーディオの世界なら常識だ。制振性あるいは振動の伝わり方、外部/内部のノイズ遮断性、外観が醸し出す聴く前からのイメージ…。筐体の素材で音質が変わる要素はたくさんある。
Astell&Kernは、これまでもステンレス筐体の「AK240」(関連ニュース)を発売するなど、「筐体の素材」にはこだわりを見せてきた。「半ば趣味で別素材のバージョンを作っている。でも本当に音が変わるんだよ」と、同ブランドを手がけるiriverの副社長 ジェイムス・リー氏がそう語ったのは、CES 2015の会場でAK240 ステンレスモデルの試作機を満面の笑みでバッグから取り出したときだった(その時は、まさか本当に発売するとは思わなかったが)。
AK380 Copperは限定で発売され、今回はなんと専用ヘッドホンアンプ「AK380アンプ」までCopperバージョンが登場した(関連ニュース)。今回、「AK380 Copper」が通常モデルとどれだけ音が異なるのか、聴き比べを行ってみた。
■通常版AK380より120g重い。手に持った感覚はそれ以上だ
まず、通常版AK380とAK380 Copperの素材のちがいを改めて確認しておく。通常版AK380は筐体にジェラルミンを用いているが、AK380はその名の通り銅を用いている。しかも、純度99.9%という高純度銅だ。また背面がAK380はカーボン素材オンリーなのに対して、AK380 Copperはカーボンとケブラーを併用している。ケブラーを加えたのは、カーボンは塗装が難しいためで、塗装したケブラーを併用することで青みのある背面を実現したのだという。
ちなみにAstell&Kernは、「管楽器の素材にも採用される銅は、銀に次いで導電率が高い金属。この優れた導電性と外来ノイズを防ぐシールド効果、比重の大きさにより、ジェラルミンと異なる方向での優れたサウンドを提供する」と紹介している。
重量はAK380が約230g、AK380 Copperが約350gとなる。実際に手にしてみると、AK380 Copperは金属の塊を持ち上げているような感覚で、120gという質量差以上の重みを感じる。
■低域再現に明確な個性のちがいが現れる
それでは通常版「AK380」と「AK380 Copper」を聴き比べてみよう。イヤホンには普段リファレンスで使っているUnique Melody「MAVERICK」のカスタムモデルを用いた。
まずは毎回試聴曲に使っているノラ・ジョーンズ「Don't Know why」(FLAC 192kHz/24bit・e-onkyo music)で、Copperと通常モデルを聴き比べてみた。AK380通常版で聴くと、透明度の高い澄んだ音場に、高解像度で各楽器が描き出される。ピアノは消え入り際まで自然に減衰し、弦の倍音は美しい。ベースは量感を抑えつつタイトだが、質感や音階はしっかり伝わる。この卓越したピュアネスこそAK380の音だ。
AK380 Copperではどうだろうか。一聴してわかる音のちがいは低音だ。通常版は徹底したフラットバランスだが、Copperではそこからさらに腰が下がった印象だ。ウッドベースは弦の響きの密度が増し、音色は濃くなる。アタックもよりタメが効く印象で、よりグルーヴィーな演奏になる。
中高域についてはどうだろうか。アコースティックギターの倍音は、Copperではより艶やかになる。ボーカルは通常版の方が透明度の高さと抜けの良さでクールな魅力があるのに対して、Copperではやや湿り気と温度感が加わる。全体を見通すと、通常版のクリアな音像に、少しだけ陰影が付けられたように感じる。
低音を中心に確認したいと思い、ボブ・マーリー「Is This Love」(AIFF 192kHz/24bit・HDtracks)も再生。通常版では各楽器のセパレーションが際立ち、低域の解像感の高さが味わえる。一方でCopperで聴くと音全体に厚みが増して、低域は解像感を保ったまま粘りと深みが増したようだ。
■透徹なAK380サウンドに、人間的な温度感が加わる
RCサクセション「去年の今頃」(FLAC 96kHz/24bit・e-onkyo music)を聴く。通常版では清志郎の声がよりドライな印象。去ったであろう女子のことを淡々と歌うことで逆に寂しさが募るといったイメージを喚起する。Copperだと、清志郎の声はよりエモーショナルに寂しさを歌い上げているように聴こえる。ベースの躍動感が増したのは予想通りで、各楽器の音色もより色濃く出てくる。
何曲か聴き比べて思った。AK380の音は高S/Nでクリアで、一言で言えば「透徹」とした音だ。だから各音のレイヤーが見えすぎて、逆に遠近があいまいに感じてしまうときがある。写真や絵画でも背後までピントが合っていると、遠近感がわからなくなくなるときがあるが、そんな感じだ。Copperでは、2Hの鉛筆で綺麗に書いたそもそもの輪郭に、2Bの鉛筆で斜めに擦りながら陰影をつけて立体感を出したような雰囲気が加わる。
こう書くとCopperの方が音が優れているように思われるかもしれないが、純粋なクリアネスという意味ではAK380が上回っていると感じた。モニターという意味でも、AK380の音が正確なのだと思う。しかしAK380 Copperには、もう少しだけ暖かみを感じるのだ。こういう温度感を“より音楽的だ”と言っても差し支えないだろう。
■AK380 Copperアンプと組み合わせた“完全体”を試聴
今回は、発売されたばかりの“AK380 アンプ Copper”「AK380-AMP-CP」も借りることができたので、Copperコンビでの組み合わせでも試聴してみた。ただでさえポータブルとしては重量級のAK380 Copperが、AK380 アンプCopperと合体すると超重量級になる。ある意味で据え置きモデルである。見た目は、通常版以上に超合金の合体ロボを想起させる。銅の表面が少しだけくすんでいるのが、よい具合に重厚感に説得力を与えている。
引き続き、MAVERICKカスタムで試聴した。前出のノラ・ジョーンズ「Don't Know why」を、AK380 アンプ Copper経由で聴くと、Copperの低域の深みや密度が一段増す。音像はより立体的に展開し、音場は奥行きが深くなる。単純な明瞭さという意味では、AK380 Copper単体のほうが優れていると感じるが、それを補って余るコントラスト感が味わえる。
アンプとの組み合わせということで、より駆動力が必要なオーバーヘッド型ヘッドホンとの組み合わせも試してみた。普段リファレンスに使っているAudioQuestの「NightHawk」で聴いた。
NightHawkでの再生では、アンプの効果はさらに明白になる。単体AK380 Copperでも中高域のニュアンスなどはしっかり楽しめるレベルなのだが、NightHawkの魅力である低域が持て余し気味になってしまう。
それがAK380アンプを組み合わせると、ベースはしっかりと制動され、音階もより明瞭になる。全体の厚みもでる。土台がしっかりとしたこともあり、音場もより広くなる。音色の変化は穏やかだが、Copperならではの音質をヘッドホンで楽しみたいならば、アンプは必須かもしれない
◇
AK380はプロフェッショナルユースを標榜するだけあって、徹底した透徹なモニターサウンドである。人によっては“音楽を楽しむには見えすぎる”とか、“モニターライクすぎる”と感じる方もいるかもしれない。一方でCopperは、そこに自然な暖かみや人間味を加えてくれるという印象。どちらが好きかは、好みと用途次第だろう。
私の場合はどちらかと言うと、好みのロックやダンスミュージックを毎日楽しむことを考えたらCopperが良いと思った。MAVERICKカスタムとの相性という点では、もしかしたらAK380のほうが良かったのかもしれないが、そこは気分の範疇だった。
もしAK380の導入を考えているならば、ぜひAK380Copperも聴き比べてみてほしい。「こちらのほうが好み」という方も少なくないはずだし、好みが分かれるだけの明確な音のちがいがあるのだ。
(編集部:小澤貴信)
■AK380の純度99.9%銅ボディ採用モデルを聴く
Astell&Kern「AK380」は、ポータブルとしては群を抜く価格もさることながら、その他を圧倒する再生クオリティで、ハイエンド・ポータブルのひとつの指標になった。まさにジャンルを牽引するモデルである。このAK380に、純度99.9%の銅筐体を用いた限定バージョン「AK380 Copper」(関連ニュース)が登場した。
AK380 Copperと通常モデルのAK380の中身はまったく同じものだ。異なるのは筐体の素材だけ。しかし、筐体の素材や質量で音が変わるというのは、オーディオの世界なら常識だ。制振性あるいは振動の伝わり方、外部/内部のノイズ遮断性、外観が醸し出す聴く前からのイメージ…。筐体の素材で音質が変わる要素はたくさんある。
Astell&Kernは、これまでもステンレス筐体の「AK240」(関連ニュース)を発売するなど、「筐体の素材」にはこだわりを見せてきた。「半ば趣味で別素材のバージョンを作っている。でも本当に音が変わるんだよ」と、同ブランドを手がけるiriverの副社長 ジェイムス・リー氏がそう語ったのは、CES 2015の会場でAK240 ステンレスモデルの試作機を満面の笑みでバッグから取り出したときだった(その時は、まさか本当に発売するとは思わなかったが)。
AK380 Copperは限定で発売され、今回はなんと専用ヘッドホンアンプ「AK380アンプ」までCopperバージョンが登場した(関連ニュース)。今回、「AK380 Copper」が通常モデルとどれだけ音が異なるのか、聴き比べを行ってみた。
■通常版AK380より120g重い。手に持った感覚はそれ以上だ
まず、通常版AK380とAK380 Copperの素材のちがいを改めて確認しておく。通常版AK380は筐体にジェラルミンを用いているが、AK380はその名の通り銅を用いている。しかも、純度99.9%という高純度銅だ。また背面がAK380はカーボン素材オンリーなのに対して、AK380 Copperはカーボンとケブラーを併用している。ケブラーを加えたのは、カーボンは塗装が難しいためで、塗装したケブラーを併用することで青みのある背面を実現したのだという。
ちなみにAstell&Kernは、「管楽器の素材にも採用される銅は、銀に次いで導電率が高い金属。この優れた導電性と外来ノイズを防ぐシールド効果、比重の大きさにより、ジェラルミンと異なる方向での優れたサウンドを提供する」と紹介している。
重量はAK380が約230g、AK380 Copperが約350gとなる。実際に手にしてみると、AK380 Copperは金属の塊を持ち上げているような感覚で、120gという質量差以上の重みを感じる。
■低域再現に明確な個性のちがいが現れる
それでは通常版「AK380」と「AK380 Copper」を聴き比べてみよう。イヤホンには普段リファレンスで使っているUnique Melody「MAVERICK」のカスタムモデルを用いた。
まずは毎回試聴曲に使っているノラ・ジョーンズ「Don't Know why」(FLAC 192kHz/24bit・e-onkyo music)で、Copperと通常モデルを聴き比べてみた。AK380通常版で聴くと、透明度の高い澄んだ音場に、高解像度で各楽器が描き出される。ピアノは消え入り際まで自然に減衰し、弦の倍音は美しい。ベースは量感を抑えつつタイトだが、質感や音階はしっかり伝わる。この卓越したピュアネスこそAK380の音だ。
AK380 Copperではどうだろうか。一聴してわかる音のちがいは低音だ。通常版は徹底したフラットバランスだが、Copperではそこからさらに腰が下がった印象だ。ウッドベースは弦の響きの密度が増し、音色は濃くなる。アタックもよりタメが効く印象で、よりグルーヴィーな演奏になる。
中高域についてはどうだろうか。アコースティックギターの倍音は、Copperではより艶やかになる。ボーカルは通常版の方が透明度の高さと抜けの良さでクールな魅力があるのに対して、Copperではやや湿り気と温度感が加わる。全体を見通すと、通常版のクリアな音像に、少しだけ陰影が付けられたように感じる。
低音を中心に確認したいと思い、ボブ・マーリー「Is This Love」(AIFF 192kHz/24bit・HDtracks)も再生。通常版では各楽器のセパレーションが際立ち、低域の解像感の高さが味わえる。一方でCopperで聴くと音全体に厚みが増して、低域は解像感を保ったまま粘りと深みが増したようだ。
■透徹なAK380サウンドに、人間的な温度感が加わる
RCサクセション「去年の今頃」(FLAC 96kHz/24bit・e-onkyo music)を聴く。通常版では清志郎の声がよりドライな印象。去ったであろう女子のことを淡々と歌うことで逆に寂しさが募るといったイメージを喚起する。Copperだと、清志郎の声はよりエモーショナルに寂しさを歌い上げているように聴こえる。ベースの躍動感が増したのは予想通りで、各楽器の音色もより色濃く出てくる。
何曲か聴き比べて思った。AK380の音は高S/Nでクリアで、一言で言えば「透徹」とした音だ。だから各音のレイヤーが見えすぎて、逆に遠近があいまいに感じてしまうときがある。写真や絵画でも背後までピントが合っていると、遠近感がわからなくなくなるときがあるが、そんな感じだ。Copperでは、2Hの鉛筆で綺麗に書いたそもそもの輪郭に、2Bの鉛筆で斜めに擦りながら陰影をつけて立体感を出したような雰囲気が加わる。
こう書くとCopperの方が音が優れているように思われるかもしれないが、純粋なクリアネスという意味ではAK380が上回っていると感じた。モニターという意味でも、AK380の音が正確なのだと思う。しかしAK380 Copperには、もう少しだけ暖かみを感じるのだ。こういう温度感を“より音楽的だ”と言っても差し支えないだろう。
■AK380 Copperアンプと組み合わせた“完全体”を試聴
今回は、発売されたばかりの“AK380 アンプ Copper”「AK380-AMP-CP」も借りることができたので、Copperコンビでの組み合わせでも試聴してみた。ただでさえポータブルとしては重量級のAK380 Copperが、AK380 アンプCopperと合体すると超重量級になる。ある意味で据え置きモデルである。見た目は、通常版以上に超合金の合体ロボを想起させる。銅の表面が少しだけくすんでいるのが、よい具合に重厚感に説得力を与えている。
引き続き、MAVERICKカスタムで試聴した。前出のノラ・ジョーンズ「Don't Know why」を、AK380 アンプ Copper経由で聴くと、Copperの低域の深みや密度が一段増す。音像はより立体的に展開し、音場は奥行きが深くなる。単純な明瞭さという意味では、AK380 Copper単体のほうが優れていると感じるが、それを補って余るコントラスト感が味わえる。
アンプとの組み合わせということで、より駆動力が必要なオーバーヘッド型ヘッドホンとの組み合わせも試してみた。普段リファレンスに使っているAudioQuestの「NightHawk」で聴いた。
NightHawkでの再生では、アンプの効果はさらに明白になる。単体AK380 Copperでも中高域のニュアンスなどはしっかり楽しめるレベルなのだが、NightHawkの魅力である低域が持て余し気味になってしまう。
それがAK380アンプを組み合わせると、ベースはしっかりと制動され、音階もより明瞭になる。全体の厚みもでる。土台がしっかりとしたこともあり、音場もより広くなる。音色の変化は穏やかだが、Copperならではの音質をヘッドホンで楽しみたいならば、アンプは必須かもしれない
AK380はプロフェッショナルユースを標榜するだけあって、徹底した透徹なモニターサウンドである。人によっては“音楽を楽しむには見えすぎる”とか、“モニターライクすぎる”と感じる方もいるかもしれない。一方でCopperは、そこに自然な暖かみや人間味を加えてくれるという印象。どちらが好きかは、好みと用途次第だろう。
私の場合はどちらかと言うと、好みのロックやダンスミュージックを毎日楽しむことを考えたらCopperが良いと思った。MAVERICKカスタムとの相性という点では、もしかしたらAK380のほうが良かったのかもしれないが、そこは気分の範疇だった。
もしAK380の導入を考えているならば、ぜひAK380Copperも聴き比べてみてほしい。「こちらのほうが好み」という方も少なくないはずだし、好みが分かれるだけの明確な音のちがいがあるのだ。
(編集部:小澤貴信)