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[Top Interview] オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン 上山洋史社長

なぜオンキヨーは自ら建築士事務所をつくったのか? 背景と将来展望を社長に訊く

公開日 2020/09/28 12:04 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
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ホームAV事業への再注力を表明したオンキヨー。その目玉となるのが、「オンキヨー 一級建築士事務所設立」「米国“Control4”との業務提携拡大に向けた協議開始」など、スマートホーム時代の到来を見据えたカスタムインストール事業の強化だ。事業を取り巻く環境や成長に向けた取り組みの狙いについて、オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンの上山洋史社長に話を聞く。


オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン株式会社
代表取締役社長
上山洋史


プロフィール/1973年10月27日生まれ。兵庫県出身。1997年4月 オンキヨー株式会社入社、2005年4月 国内営業部 カスタムインストール課 課長、2008年10月 海外営業部 アジア・オセアニア課 課長、2012年4月 Onkyo China出向、2013年4月 Gibson Guitar Corporation Japan出向 Business Development Manager - Vice President、2019年4月 オンキヨー株式会社 DL事業部 General Manager、2020年5月 オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン株式会社 代表取締役社長。座右の銘は「勝てば官軍」、趣味は音楽鑑賞、読書。

■多様性と異質性が求めるカスタムインストール

―― 構造改革が奏功し、より利益を確保しやすい状態となったホームAV事業への再注力を明らかにされました。Klipschブランドを扱う米国VOXXグループとの販売代理店契約も発表され、AV事業を中心とした組織再編も行われています。中でも注目されるのは、ホームAV事業戦略として、スマートホーム時代に向けた空間設計とシステムコーディネートを担う「オンキヨー 一級建築士事務所」の設立を発表されるなど、カスタムインストールビジネスの強化を打ち出されました。

上山 インストールビジネス事業の拡大にあたっては、次の3点をその骨子に据えています。まず1つ目は、現在の顧客である大手住宅メーカーに対し、カスタムインストールの製品化により、直販ビジネスを強化し、単価アップと高収益の確保を目指すこと。2つ目が「オンキヨー一級建築士事務所」の設立です。インストール、設計、インテリアコーディネイトなど、われわれが備える技術やノウハウを核とした提案を製品化し、オンキヨー一級建築士事務所をプラットフォームとして、新たな直販ビジネスの強化を図ります。そして3つ目は、既存事業の拡大戦略です。現在の大手新築小売に偏重した体制からの脱却を図り、準大手やリノベーションへ販路を拡大するとともに、ホームシアター提案にとどまらない“心地よい音空間”の提案など、提案力も強化して参ります。

―― 「オンキヨー 一級建築士事務所」では、新たに自らがインストーラーとなり、設計やデザイン、システムプランニングなどのソフトを製品化し、提供されていかれます。

上山 7月9日に「オンキヨー一級建築事務所」(正式名称:オンキヨー&パイオニア株式会社一級建築士事務所)のWEBサイトを立ち上げました。実は、オンキヨー一級建築士事務所そのものは2005年頃より存在しており、これまでハウスメーカーの下請けとして累計1万件以上のホームシアター図面を作成してきております。今後は、既存ビジネスの拡大と同時に、オンキヨー一級建築士事務所そのものがカスタムインストーラーとなり、システムを製品化してお客様にインストールを行うことを、直販で行って参ります。また、このサイトをプラットフォームにして、新たな収益確保を目的としたビジネス展開も進めていく計画です。

オンキヨー一級建築士事務所では、ホームオートメーションシステムの提供まで含め、お客様のより快適なライフスタイルの実現をサポートする。

―― 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ステイホームにより、家で映画や音楽を楽しむ機会も増えていますが、日本におけるカスタムインストール市場をどのように展望されていますか。

上山 まず挙げられるのは、時代背景の変化です。昔はそれこそ皆が同じものを購入して使用していました。高度成長期には、生活の利便性・快適性を高めるテレビや洗濯機、冷蔵庫が急速に普及しましたが、機能やデザインは重要ではありません。何しろまだ家にないのですから、他の家と同じものであろうとこぞって購入しました。見る番組も聞く音楽も皆同じで、今では考えられませんが、1970年代はNHK「紅白歌合戦」の視聴率が70%を超えるのが当たり前の時代でした。

しかし、そうした時代から、徐々にライフスタイルは多様化していきます。質的な豊かさが強く志向されるようになった21世紀には、「多様性」や「異質性」が消費の特徴と言えます。「消費の多様化」や「顧客の多様化」というフレーズは、現代の消費者を語る上で枕詞のように出てきます。しかも、多様化と一言に言っても、そのパターンすらさまざまです。“十人十色”で顧客ごとにニーズは異なる上に、さらに、“一人十色”で同じ顧客でも時と場合によってニーズは変化します。さらにそれが、 時間の経過とともにまた変化していきますから、最終的にはオーダーメイドに近い状態になります。すなわち、カスタムインストールの必要性はこれからさらに高まるばかりで、顧客のニーズに応じたコンサルティング営業の実践が求められているのです。

―― 事業拡大にはカスタムインストールが不可欠になるわけですね。

上山 もうひとつの背景として、富裕層の増加にも着目しなければなりません。野村総合研究所(NRI)によると、保有する預貯金、株式、債券、投資信託などの金融資産の合計金額から、負債を差し引いた純金融資産が5億円以上になる超富裕層と、同1億円以上5億円未満の富裕層が、2017年には日本に127万世帯弱あります。全世帯数に占める割合は約2.4%となり、100人中2、3人が富裕層になる計算で、2013年から増加の一途です。資金的にも十分に余裕があり、ありきたりではない、自分の価値観を追求します。カスタムインストールの必要性を訴えられるターゲット層が増加しているのです。

オンキヨー一級建築士事務所のWEBサイトでは、一級建築士とインテリアコーディネーター資格を持つスタッフがお客様の想いに応える、多彩なシステムプランを紹介する。「ハイグレードシステム」はKlipschやMeridianのスピーカーを用いた本格的なシステム。写真は「Meridianプラン:01」。

ハイグレードシステムの「Klipschプラン:01」。


生活空間を邪魔しない「住宅サウンドシステム」にも多彩なプランを用意。写真は天井にスッキリと配置されたスピーカーで、ベッドルームやキッチンでも音楽がいい音で楽しめる「BGMプラン:01」。

天井埋込タイプのスピーカー5台で、いまある部屋で手軽にホームシアターが楽しめる住宅サウンドシステムの「ホームシアタープラン:01」。

■Control4との業務提携拡大で高まる提案力

―― 7月16日には、オートメーションプログラムで快適なスマートホームシステムを提供する米国「Control4」の国内販売代理権を取得されました。業務提携拡大に向けた協議も開始され、ホームシアターやオーディオルームのデザイン、設計にとどまらず、提案する空間はスマートホームまで見据えていらっしゃいます。

Control4との協業でスマートホーム提案がより強力になる。

上山 人々の生活を豊かにするためには、オーディオやビジュアル製品を制御し、快適にコントロールできるシステムとしての頭脳が必要になります。頭脳が指令を出すことで、AV機器やLutronなどの調光装置、監視カメラやインターフォン、さらにはエアコンなどの家電製品が、システムの手足となって働きはじめます。その利便性は計り知れません。

それではだれが頭脳となるのか。CrestronやAMXなどの制御機器が、ここ10年以上にわたり、この市場を牽引してきたことは有名です。今日では、ネットワークがシステムの利便性を大きく向上させ、クラウドがベースとなり、データベース上に情報が蓄積され、より複雑なプログラムも容易になりました。これによりスマートホーム関連市場も拡大しています。

SavantやRTIなど多くの新興勢力も現れましたが、その中でも群を抜く存在感を示すのがControl4です。Cotrol4のシステムは、オーディオ、ビジュアル製品のみならず、照明やインターフォン、セキュリティーシステムを含め13,500以上のデバイスの制御が可能です。現在、世界100カ国・37万世帯以上に、同社のシステムをプラットフォームとしたスマートホームが導入され、圧倒的な実績を誇ります。米国CE Proによる、北米のカスタムインストーラーが支持するブランドの調査結果では、Control4が2015年にCrestronを抑えて1位となって以来、圧倒的な支持率を得ています。

北米でカスタムインストーラーが支持するブランドでは、Control4が圧倒的な支持率を誇る(米国CE Proによるアンケート調査)。

7月15日に発信いたしましたプレスリリース「米国“Control4”との業務提携拡大に向けた協議開始のお知らせ」は、今後の商品開発や販売・マーケティングなど、広範囲な協業に向けた協議を開始することについて基本合意に至ったことをお知らせするものです。すでに双方の代理店契約書で、オンキヨーがControl4の国内代理店となる一方、Control4 APACがオーストラリア、ニュージーランドのIntegra代理店となることについての協議を進めています。グローバル戦略においても、Control4はシンガポールを中心とした東南アジアやインドへの進出も計画しています。ここでもIntegra戦略と協業することで、各リージョンにおけるカスタムインストール市場の開拓を牽引していく計画です。

1999年にIntegraブランド製品を北米市場に導入以来、グローバルチャンネルでのカスタムインストールビジネスで、ホームオートメーションを手掛けるCotrol4とは長年において協力関係にある。

―― カスタムインストールの最大市場である米国においては、新たにVOXXグループとの提携も発表されました。売掛金の回収やワーキングキャピタルの良化が見込まれると同時に、同グループが扱うKlipschブランドとのシナジーによる売上拡大を見込まれています。

上山 日本国内おきましても、昨年、販売代理権を獲得したハイエンドオーディオのMeridian (英国)、そしてKlipsch(米国)が、音響システムの核となります。さらに、ライティングやLutronのシェードコントロール等を含めたシステムをControl4で一括制御することで、カスタムインストール製品のパッケージ化を一気に加速して参ります。

■Room301で最新のスマートホームを体感

―― カスタムインストールの強化に伴い、オンキヨー&パイオニアが東京都墨田区両国のオフィス内に構える、住宅用サウンドシステムを体験できる完全予約制の視聴室「Room 301」のリニューアルも進められています。その狙いをお聞かせください。

上山 コンセプトは「居心地の良いモダンなリビングルーム」です。カスタムインストールを体験できる“Ci Experience center”として、近日のリニュールオープンを目指しています。皆さんを誘導する体験の場であると同時に、クロージングの場としても機能させていきます。

コンテンツとしては、天井埋込型スピーカーによる試聴はもちろんのこと、さらに、ライティングコントロールやホームオートメーションも体験できるようになります。また、コロナ終息後には、オーディオやホームシアターでは、視聴会等の音のイベントを開催して多くのお客様に存在をアピールしていきます。新製品発表会等だけでなく、例えば、e-onkyo musicとKlipschとの協業で、ジャズの名盤をKlipsch Heritageシリーズで試聴したり、Meridian 210 Streamerでハイレゾ試聴したり、今後のトレンドになり得る、注目必至の大きな可能性を持ったイベントも開催していく予定です。

―― 試聴システムをお聞かせいただきますか。

上山 天井スピーカーのオンキヨー「ICS-30」の5.1chシステムをメインに、Klipschの7.1chシステムやDolby Atmosスピーカー、フロント3ch壁面埋込スピーカー、壁面埋込型サブウーファー、天井埋込型サブウーファーがプレインストールされる予定です。また、フロアスタンディングスピーカーとのコンビネーションにも対応できるようにMeridian Linkを事前配線し、あらゆるニーズに対応可能なマルチルームとなります。65インチTVと100インチワイドスクリーンを備えた2ウェイシアターで、ホームシアターの魅力を満喫いただけます。また、造作家具の作製や、Wall Greenの販売等、インテリアコーディネイトを軸とした新しいビジネスも検討しているところです。

住宅向けの商品が体験できる「Room301」がリニューアル。ホームシアターやスマートホームが体感できる。

―― さらに、9月10日には、スウェーデンDirac Research 社とDirac Liveのライセンス契約の締結を発表されました。

上山 Dirac社が提供する「Dirac Live」というのは、マイクで測定した音響データで、オーディオ機器と視聴する部屋の音響特性を分析し、リスニング環境に最適化された、最上級の視聴環境を実現する音質・音場補正技術です。今回、Dirac Liveソリューションのライセンス供与を受けることで、今後、さまざまな製品やサービスに、この音質・音場補正技術の搭載を進めて参ります。当社のホームシアターやオーディオ製品と融合することで、ソフトウェアとハードウェアの両面から、十人十色のお客様の視聴環境に、常に最高の音響・音場をお届けすることが可能となります。

とりわけ、お客様のご要望に応じて、ホームシアターやオーディオルームを設計し、建築やインテリアに合わせてスマートな設置、コーディネートを行うカスタムインストールビジネスにおいては、視聴する部屋とは違う場所に AV 機器を設置する場合でも、最適な音響補正を遠隔操作にて行うことができ、手軽で正確な設定が可能となります。

また、Dirac Liveのアプリケーションと当社のコントローラーのアプリを統合することで、初めて音場補正を行う方でも簡単に調整が行えるようになるのも大きな進化です。Dirac Liveの採用が、当社ホーム AV ビジネスやカスタムインストールビジネスのさらなる成長のステップになると確信しています。

―― コロナ禍で生活スタイルも大きく変化しようとしています。

上山 コロナにより、家庭での働き方や家庭内でのエンターテイメントにフォーカスが当たり、今後、ライフスタイルが変化していくことに疑う余地はありません。この方向性は後戻りすることなく、むしろさらに加速していくでしょう。このような背景のもと、いままでの弊社ホームAV製品の強みを際立たせ、さらに、テレワーク需要に対応すべく社内で開発が進められている「インスタントパーテーション」やAVRの次期モデル、また、昨今のカスタムインストール市場にマッチした薄型(1Uマウント型)Receiverの開発、Hi-Fiシステムの復活、その他にも社内で進められているプロジェクトを含めて、今後、ホームAVへさらに高まる関心に対して総合的に事業強化を図り、全力でお応えしていきます。

■Onkyoらしさのもと、環境変化に迅速に応える

―― オンキヨーでは他にも、ONKYO DIRECTで販売好調なミオドレ式ストレッチ枕をはじめとするウェルネス事業、「獺祭×オンキヨー共同制作プロジェクト」による振動・音を利用した“食文化”貢献への取り組み、プロeスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」とのオフィシャルサポーター契約締結など、新たな取り組みの発表も相次いでいます。

上山 7月31日に今後の方向性として発表させていただきました通り、オンキヨー株式会社の社名をオンキヨーホームエンターテイメント株式会社に変更し、ホームAV事業、デジタルライフ事業、ゲーミング事業をグローバル市場でより一層強化します。お話してきた日本のカスタムインストール事業はその一環です。

OEM事業はオンキヨーサウンド株式会社、e-onkyo music、onkyo direct、コラボ商品、onkyo sports、カスタムIEM、発酵、聴診器、オンキヨーブランドのデジタルライフ事業、オンキヨーブランドのライセンス事業など、その他の事業はオンキヨー株式会社とし、それぞれ上場会社オンキヨーホームエンターテイメントの100%子会社とします。各事業は、他の事業や他人への責任転嫁を止め、自分の事業体での独立採算を徹底していきます。各事業の足腰を強化し、それらが重なりあうことで次世代に強いオンキヨーを目指します。

このような経営方針のもとで各自事業が動いておりますので、自然に自分たちの強みを製品化し、またビジネスにしようと試みた結果、ONKYO DIRECTで販売好調なミオドレ式ストレッチ枕をはじめとするウェルネス事業や、「獺祭×オンキヨー共同制作プロジェクト」による振動・音を利用した“食文化”貢献への取り組み、プロeスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」とのオフィシャルサポーター契約締結などが形となっているわけです。

―― それでは最後に意気込みをお願いします。


AV事業を中心に組織を再編。
上山 弊社の経営理念は“Value Creation”です。それは、長年にわたるものづくりで培ってきた技術やノウハウに“新しい何か”を加えることで、驚きと感動を提供していくことを意味しています。今後も加速することが予想される環境変化に対応し、さらにその上に“Onkyoらしさ”を提供していくことが重要だと考えています。今後のオンキヨーにどうぞご期待ください。

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