ソニーの次世代AVアンプ「TA-DA5300ES」誕生 − 開発者・金井氏緊急インタビュー
ソニーから7.1ch対応のAVアンプ「TA-DA5300ES」が発表された。本機の目玉は、何と言ってもBDやHD DVDなど、次世代フォーマット規格にも採用されている「ドルビーTrueHD」と「DTS-HD Master Audio」のロスレスコーデックに対応したことだ。その実力のほどを探るべく、今回は本機の開発者担当者への緊急インタビューを行った。ただあまりにも“緊急”で筆者が押しかけてしまったため、インタビューは本機の直接の開発担当者ではなく、ソニーのピュアオーディオアンプの開発全体を統括しているオーディオ事業本部 ホームオーディオ事業部 設計1部 主幹技師の金井隆氏にご対応いただいた。
なお本機の詳細は既報を参照していただきたい。
海外では「STR-DA5300ES」を旗艦に「STR-DA4300ES」、「STR-DA3300ES」という下位モデルもラインアップされているが(関連ニュース)、「国内のニーズや市場を考えたらトップクラスに絞って発売するべき」とのことで、国内は最上位モデルの「STR-DA5300ES」と同じ、「TA-DA5300ES」のみが発売されることになった。ラインアップとしては「TA-DA3200ES」の上位モデルという位置づけだろう。金井氏は「新規ユーザーはもちろん、2004年11月に発売された「TA-DA7000ES」のユーザーに買い替えていただくのにも最適なグレードの製品だと思います」と説明する。
注目すべき点が多い製品だが、まず外観の変更点から見ていこう。フロントパネルにはHDMI専用の切替えボタンとDMPORTボタンが追加された。HDMIボタンを押すことで6つのHDMI入力が切替えられる。今後、HDMIでの接続機器が増えるだろうことを考えると、重宝する機能だ。そのほかの機器への切り替えは回転式のINPUT SELECTORツマミで行う。このINPUT SELECTORなど、本体前面に3つあるツマミはTA-DA3200ESでは樹脂製だったが、本機からすべて金属製になっており、音質にも好影響を与えているという。
見逃せないのがDMPORTボタンだ。これは将来発売されるDMPORT対応の携帯音楽プレーヤーやBluetooth機器を接続した際に使用する切替えスイッチだ。海外モデルの「STR-DA5300ES」はこのDMPORTに専用のiPod用ドックを接続できるが、国内でのiPod用アクセサリーの発売予定は今のところない。国内では今後ウォークマンなどで使える接続用アクセサリーが発売されるものと予想される。ただし、DMPORTは全く新しい規格のインターフェースのようなので、従来機は対応しない可能性がある。
HDMI Ver.1.3aに対応したHDMI入力端子は、前述の通り6系統を用意。HDMの出力は1系統なので、映像出力のスイッチャーとしては使えないが、現時点では十分なHDMI端子の数を備えている。6系統あるHDMI端子は、6番目が最も高音質になるよう設計されており「for Audio」端子と表記されている。金井氏によると、この6番目の端子が内部のスイッチング回路から最も短い経路で実装されており、外乱影響を受けず最良の音質で再生できるとのことだ。6番ポートを最高音質とするなら、1番ポートは最も音が良くないので、接続する場合は音質にこだわらない機器の接続に使うべきだろう。
金井氏によれば、今回最も開発陣が力を注いだのが「ドルビーTrueHD」と「DTS-HD Master Audio」のロスレスコーデックへの対応だという。
映画などの制作現場では非圧縮のリニアPCMで録音されているが、DVDなどの映像ソフトに収録するためには、ドルビーデジタルなどの圧縮フォーマットで記録が行われていた。
しかし高画質なBDやHD DVDソフトの登場により、音声のグレードアップが求められるようになったのに伴って誕生したのが、このドルビーTrueHDとDTS-HD Master Audioのロスレスフォーマットだ。ロスレスとは可逆性の音声圧縮を行うことで、圧縮前の音声をそのままのクオリティで再生する方式のこと。
ただ、筆者の経験から言うと、どちらのフォーマットも可逆性でありながら、リニアPCMと比較すると再生時の音質に違いがあった。実はこの違いに着目しTA-DA5300ESに搭載されたのが、低ジッター・ロスレスデコードエンジンだ。
金井氏によると、ロスレスフォーマットでは、データ自体を元のリニアPCMに戻す際、大量のノイズが発生し音質に悪影響を及ぼす“ジッター”を発生させるという。デコード時にDSP回路が大量の電力を消費することでジッターが発生するのが主な原因だ。TA-DA5300ESではDSP回路のすぐそばに電源回路を配置したことで、ロスレスデコード時のジッターを抑えた。金井氏は「ロスレスデコードは記録時の原音を再現する実力はあるが、専用の回路でデコード時のノイズ対策をしないとリニアPCMよりも音が悪くなる」と断言する。
しかしなぜ金井氏はこの現象にいち早く着目し、対策を打てることができたのだろうか? その問いに対して金井氏は、「自社内のBDレコーダー/プレーヤー開発チームと連絡を密に取ることでこの現象を確認し、対策を施すことができました。またTA-DA5300ESの開発にはSCEの“PLAYSTATION3”を設計しているチームも協力しています。アンプ単独で開発を進めていたならば、ロスレスデコード時のノイズ対策はできなかったかもしれません。きっと来年以降に登場するAVアンプはロスレスデコード時のノイズ対策がカギになると思います」と語り、グループ全体の協力でTA-DA5300ESが完成したことを強調した。
以上、駆け足でTA-DA5300ESの注目機能をご紹介した。気になる音質については、近日試聴レポートを交えてお伝えしたい。
鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」などで使いこなし系のコラムを連載。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら
なお本機の詳細は既報を参照していただきたい。
海外では「STR-DA5300ES」を旗艦に「STR-DA4300ES」、「STR-DA3300ES」という下位モデルもラインアップされているが(関連ニュース)、「国内のニーズや市場を考えたらトップクラスに絞って発売するべき」とのことで、国内は最上位モデルの「STR-DA5300ES」と同じ、「TA-DA5300ES」のみが発売されることになった。ラインアップとしては「TA-DA3200ES」の上位モデルという位置づけだろう。金井氏は「新規ユーザーはもちろん、2004年11月に発売された「TA-DA7000ES」のユーザーに買い替えていただくのにも最適なグレードの製品だと思います」と説明する。
注目すべき点が多い製品だが、まず外観の変更点から見ていこう。フロントパネルにはHDMI専用の切替えボタンとDMPORTボタンが追加された。HDMIボタンを押すことで6つのHDMI入力が切替えられる。今後、HDMIでの接続機器が増えるだろうことを考えると、重宝する機能だ。そのほかの機器への切り替えは回転式のINPUT SELECTORツマミで行う。このINPUT SELECTORなど、本体前面に3つあるツマミはTA-DA3200ESでは樹脂製だったが、本機からすべて金属製になっており、音質にも好影響を与えているという。
見逃せないのがDMPORTボタンだ。これは将来発売されるDMPORT対応の携帯音楽プレーヤーやBluetooth機器を接続した際に使用する切替えスイッチだ。海外モデルの「STR-DA5300ES」はこのDMPORTに専用のiPod用ドックを接続できるが、国内でのiPod用アクセサリーの発売予定は今のところない。国内では今後ウォークマンなどで使える接続用アクセサリーが発売されるものと予想される。ただし、DMPORTは全く新しい規格のインターフェースのようなので、従来機は対応しない可能性がある。
HDMI Ver.1.3aに対応したHDMI入力端子は、前述の通り6系統を用意。HDMの出力は1系統なので、映像出力のスイッチャーとしては使えないが、現時点では十分なHDMI端子の数を備えている。6系統あるHDMI端子は、6番目が最も高音質になるよう設計されており「for Audio」端子と表記されている。金井氏によると、この6番目の端子が内部のスイッチング回路から最も短い経路で実装されており、外乱影響を受けず最良の音質で再生できるとのことだ。6番ポートを最高音質とするなら、1番ポートは最も音が良くないので、接続する場合は音質にこだわらない機器の接続に使うべきだろう。
金井氏によれば、今回最も開発陣が力を注いだのが「ドルビーTrueHD」と「DTS-HD Master Audio」のロスレスコーデックへの対応だという。
映画などの制作現場では非圧縮のリニアPCMで録音されているが、DVDなどの映像ソフトに収録するためには、ドルビーデジタルなどの圧縮フォーマットで記録が行われていた。
しかし高画質なBDやHD DVDソフトの登場により、音声のグレードアップが求められるようになったのに伴って誕生したのが、このドルビーTrueHDとDTS-HD Master Audioのロスレスフォーマットだ。ロスレスとは可逆性の音声圧縮を行うことで、圧縮前の音声をそのままのクオリティで再生する方式のこと。
ただ、筆者の経験から言うと、どちらのフォーマットも可逆性でありながら、リニアPCMと比較すると再生時の音質に違いがあった。実はこの違いに着目しTA-DA5300ESに搭載されたのが、低ジッター・ロスレスデコードエンジンだ。
金井氏によると、ロスレスフォーマットでは、データ自体を元のリニアPCMに戻す際、大量のノイズが発生し音質に悪影響を及ぼす“ジッター”を発生させるという。デコード時にDSP回路が大量の電力を消費することでジッターが発生するのが主な原因だ。TA-DA5300ESではDSP回路のすぐそばに電源回路を配置したことで、ロスレスデコード時のジッターを抑えた。金井氏は「ロスレスデコードは記録時の原音を再現する実力はあるが、専用の回路でデコード時のノイズ対策をしないとリニアPCMよりも音が悪くなる」と断言する。
1. 広帯域パワーアンプII 2. HDMI、及びビデオアップコンバータ部 3. 低ジッター・ロスレスデコードエンジン 4. オーディオ/ビデオ・プリアンプ部 5. プリアンプ電源部 6. パワーアンプ電源部 ※画像は試作機のもの。市場投入時の製品ではトランスと電源コンデンサーが画像よりも大きくなる予定。 |
しかしなぜ金井氏はこの現象にいち早く着目し、対策を打てることができたのだろうか? その問いに対して金井氏は、「自社内のBDレコーダー/プレーヤー開発チームと連絡を密に取ることでこの現象を確認し、対策を施すことができました。またTA-DA5300ESの開発にはSCEの“PLAYSTATION3”を設計しているチームも協力しています。アンプ単独で開発を進めていたならば、ロスレスデコード時のノイズ対策はできなかったかもしれません。きっと来年以降に登場するAVアンプはロスレスデコード時のノイズ対策がカギになると思います」と語り、グループ全体の協力でTA-DA5300ESが完成したことを強調した。
以上、駆け足でTA-DA5300ESの注目機能をご紹介した。気になる音質については、近日試聴レポートを交えてお伝えしたい。
鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」などで使いこなし系のコラムを連載。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
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