VGP 2014 金賞受賞モデル
いま改めて検証する、ゼンハイザー最上位イヤホン「IE 800」の実力
■イヤホンの限界を超えたイヤホン
そのサウンドは、ハイエンドスピーカーで聴くような音離れの良さが快感だ。1音1音に輪郭と距離感があり、滲みなく端麗で、空間に放たれる立体感に秀でている。豊かな低域の再現能力に加え、全帯域に渡って非常に繊細で耳あたりの良いスムーズなサウンドは、前人未踏の世界である。
ダイナミック型ならではの力強いドライブ能力がゆとりを生み、強度の高いセラミックハウジングが色付きのないピュアなサウンドを支える。シングルドライバーならではの低域から高域までスムーズで精密な再生能力は、あらゆるジャンルの音楽も原音に忠実で、見事なバランスの美を奏でる。「XWBトランスデューサー」による精緻な位相特性が効いているようだ。一般的なイヤホンで感じがちな、外耳道を密閉する事による圧迫感とは無縁で、低域の深さと開放感が、録音現場の空気や空間までも如実に再現する。
「D2CAテクノロジー」による、外耳道の共鳴吸収や、密閉式でありながら、空気の流れをコントロールする、アコースティックカバーのチューニングの妙であろう。音を知り尽くしたゼンハイザーが本質を探究し、高度に練り上げた技術と高い製造品質が、イヤホンの限界を超えたイヤホンを誕生させた。
音も外観も、余計なモノをそぎ落として本質を突き詰める。音響機器でありながら、静寂をも描き切る。まさにゼンハイザーの伝統と技術の結晶が本機と言えるだろう。磨き抜かれた設計思想は、美しく凝縮された外観にも現れており、本物のみが持つオーラを宿している。ドライバーの種類や数、低音重視の音調など、ともすればギミック的な競争に陥りがちなイヤホン業界に一石を投じる製品として評価すべきだ。将来に渡って歴史に残る銘機として語り継がれるだろう。
(鴻池賢三)