【特別企画】ケン・ボール氏のインタビューも
6万円台で買える優秀機、Campfire Audio「POLARIS」レビュー。「ハイブリッドっぽくない」ハイブリッド
「イヤホン全体のハウジングとは別にその内側に、ダイナミック型ドライバーを覆うスペースを用意したんです。スピーカーのキャビネットのようなものですね。そのパーツは緻密に設計された上で、その設計通り正確に造形されており、ダイナミック型ドライバーの特性を我々の求めるものへと制御する役割を担っています」
BA型周りには「Tuned Acoustic Expansion Chamber」を採用している。こちらはドライバーからの音をビニールや金属の音導管に通さず、これまた緻密に設計された専用パーツで耳に導く技術だ。この二つのアコースティック技術が、このモデルのハイブリッド構成である。
「そういった技術を用いて我々が目指したのは、これまでにないハイブリッドサウンドです。これまでの典型的なハイブリッド型のサウンドは、二つの別種のドライバーが鳴っていることが、聴いていて分かるようなものが多かったと思います。今回我々が目指し実現したのは、二つのドライバーからの音が一つに結合したサウンドです。先行してラインナップしたハイブリッドモデル『DORADO』は、前述の分かりやすいハイブリッドのサウンドにしていたので、それとの対比も面白いかもしれません」
筆者としてはシングルBAの「ORION」のサウンドがそのまま拡張されたかのようなサウンドとも感じていたのだが、その感触、ハイブリッドらしからぬ一体感というのは、彼らの狙い通りであったようだ。
「それを実現するのにはクロスオーバー、低域用と高域用のドライバーの帯域分割の設定も重要でした。そしてそのクロスオーバーは少しユニークな設定になっています。我々はダイナミック型ドライバーのミドルレンジの感触を魅力的に感じていて、その帯域を生かすようにクロスオーバーポイントを設定しました。あと我々はALO audioでアンプの設計もしていますので、そのエレクトリックのノウハウも役立っています。最小限のパーツによるシンプルなクロスオーバー回路であることもポイントです」
エレクトリックをシンプルにできるのは、チャンバーシステムによるアコースティックでのチューニングが土台にあるからだろうか?
「そうです。アコースティックな部分での複雑で精密な配置や形状によって二つのドライバーの調和を得ています。その配置や形状の正確な造形、製造は3Dプリンターだからこそ実現しました。削り出しや金型を使った方法では不可能な形状なのです」
これまでのモデルは全モデル共通のケーブルだったが、今回は新しいケーブルが付属している。これも目新しい。
「これまでのリッツケーブルの導体は銀メッキ銅で、今回は銀メッキなしというのが大きな違いですが、編み込み方も外装も色も変えてあります。このモデルにはサウンドの面からもルックスの面からも、これがフィットしたんです」
この新ケーブルは従来より締めこまれていて、ほぐれすぎにくい感触で取り回しも良い。ケーブル単体で見ても魅力的と思える。付属するのは3.5mmシングルだが、4.4mmや2.5mmのバランスも含めて、これの単品販売も期待してしまう。
「実際にこのケーブルに触れた多くのユーザー、それに日本の代理店からも要望が来ていますので、できるだけ早く応えたいと考えています。ただ我々はすべての製品を十数人程度で組み上げていまして……『できるだけ』早くお届けします」
……さて、このところ同社イヤホンのアルミ削り出しハウジングモデルには、そのハウジングにセラミックコートが施されている。その採用理由は?
「主にはユーザーからの要望に応えてです。引っ掻き傷や化学変化への耐性を強める効果があります。このコーティングによって表面の質感も少し変わるのですが、これはこれで良い具合ですよね。それに実は、製品を組み立てる我々にとってのメリットもあります。我々もハウジングの美しさにはこだわりがあるので、組み立て工程で傷を付けることがないように細心の注意を払っています。その上で、このコーティングのおかげで、今までほどには気を張り詰め続けなくても済むようになりました。このコーティングには社員も喜んでくれていますよ」