充実のヘッドホン出力も魅力
ティアック「UD-505」レビュー。とにかく “音が良い” 多機能USB-DAC/ヘッドホンアンプ
プリアンプを通さずダイレクトにパワーアンプに入力しても、そっけない感じが全くないことにまず驚かされた。もう少し別の言い方をすれば、オーディオとしての表現の年齢感が成熟したようだ。以前は高校生くらいの若い感じがあったのが、30歳くらいのエネルギーを持ち、より対応力の高い、成熟した音になったのを感じる。
それが端的に分かるのは高域だ。様々な音色感を再現でき、ヴォーカルの音像の大きさは平均的ながらその音の表面の感覚がよく伝わってくる。どれか一つの楽器をライトアップするのではなく、それぞれに対して均等で、聴きたいと思う楽器に耳をフォーカスできる感覚がある。音の色彩感は端正だがやや濃いめで、低域まで密度が薄まらない。
DSDの『BOW』は再生の難しいソフトだが、聴いて感心したのはギターの音色感に無機的な味気ない感じを微塵も感じさせない点と、紙を擦る音がきちんと紙の質感を出せている点だ。このあたり、なかなかクリアするのが難しいポイントだ。背景は静かで、微妙な階調表現力がずいぶん高い。何よりこのソフトが本来持っているほっとするような音楽性がきちんと出てくる。サウンドステージはやや手前に展開し、音像は大きめで音楽に近い感覚がある。DSD再生でも最低域までレンジは広く、密度が薄くならない部分も大きな魅力に感じた。
ここまでは自分のMacbook Proからの再生だが、さらにクオリティーを高くすべく、Fidataの音楽再生専用NAS/トランスポート「HFAS1-S10」を使って試聴した(HFAS1-S10をトランスポートとして、UD-505とUSB接続して聴いた)。
さすがオーディオ専用機だけあって、その音のクオリティーは高い。細部の情報量が多く、漂うようなニュアンスやちょっとしたパーカッション類の響き、ピアノの小音量のフレーズの消え際の美しさなど、実に豊富なニュアンスが出てくる。身をゆだねられる音だ。Hi-Fi感やアキュレートさを強調するのではない。ここが興味深いし、オーディオ機器としてより上位にあることを感じる。
特にチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトのような情報量の多い音源では、そのニュアンスが多彩に表現されていて、本来はPCMの音源なのにまるでDSDを聴いているような、ニュアンス豊富な音に感じられた。風情とか情緒といった言葉が浮かぶ、UD-505の階調表現力の細やかさや微小領域の再現性も特筆しておきたい。
そのアナログのアンプ部は電流伝送強化型のバッファーアンプで、DAC部で精度高く変換された音楽信号をスピーカーやヘッドホンといったトランスデューサーで表現するのに、大きな役割を果たしているのを感じる。
■「TEAC-HCLD回路」を採用する、充実したヘッドホン出力もポイント
さて、UD-505を語る時に欠かせないのは「ヘッドホン出力の充実」だ。本機には3通りのつなぎ方が備えられている。
1:6.3mmステレオ標準端子を使った一般的な接続(アンバランス接続。この使い方であれば、2系統装備)
2:6.3mmステレオ標準端子を2つを使ったバランス接続。
3:4.4mm 5極端子(日本ディックス製pentaconnを採用)を使ったバランス接続。
実はこのバランス回路は、左右の各チャンネル4基ずつの出力トランジスタによって構成した『TEAC-HCLD回路』となっており、これをヘッドホン出力時にも使っているというかなり贅沢なサーキットだ。
一般的な3極端子接続、いわゆるアンバランス接続時でもこれらのトランジスタをパラレル駆動させることでヘッドホンを力強くドライブする。また基本的にはAB級アンプだが、A級動作の領域を拡大することで通常のスペックのヘッドホンで聴いている時にはほぼA級で動作。600Ωといったハイインピーダンス型ヘッドホン等の手強いスペックのものは、その底力をAB級全開で引き出してやろうという設計思想のようだ。
まずはゼンハイザーの「HD650」でベースとなるシングルエンドの音質を検証してみよう。「1」の通常の接続方法だ。インピーダンスが300Ωで感度が103dBという、なかなか鳴らしにくいヘッドホンをどう駆動してくれるのだろうか。
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