連載:オーディオワンショット
SHUREのカートリッジ撤退、SAECトーンアームの復活。アナログオーディオは今後どうなる?
サエクのトーンアームの原初は、イギリスSME社の「3012」や「3009」」の軸受け構造に用いられた“ナイフエッジ”の発展構造としての“ダブル・ナイフエッジ”の開発がきっかけであった。そのポイントは、アームの上下と左右の微細な動作においてガタの発生が一切ないということで、マニアック達に高く評価された。その評価は国内のみならず海外においても極めて高いものがあった。
私自身もそれまで長く愛用してきたSMEからサエクに順次交換。現在のプレーヤーシステムは、テクニクスのターンテーブル「SP10-MK3」+サエクのターンテーブルデッキ「SBX-3」にサエクのトーンアーム「WE-506」と「WE-8000/ST」そして「WE-407/23」の3本を装着して長く愛用し続けている。いずれも古くからのオーディオマニアの方々には懐かしい型番のトーンアームで、中古市場でも高値で取引されている。
こうしたことから「サエクのトーンアームを復活させよう!」という声がオーディオファイルやマニア間からは繰り返し挙がったが、現実は高度な工作能力を持った工場などがなかなか見つからない等、諸々の事情が重なって陽の目を見ることはこれまでなかったわけだ。
■オリジナルを再現しつつ工作精度を大きく向上させた「WE-4700」
ところが、HIGH END 2018 MUNICHで、ついに復活が現実味を帯びてきた。そのプロトタイプの型名は「WE-4700」である。恐らく実際の型名も「WE-4700」となるだろう。
これには母体があって、1980年(昭和55年)に発売された「WE-407/23」がそれである。ちょっと見にはオリジナルの母体と区別ができないほど酷似しているというが、実際にはダブル・ナイフエッジ部をはじめとして、各部と要所の工作精度をぐんと高めた内容になっているという。そこで、プロトタイプの機能などを紹介しよう。なお、「WE-4700」の機能のほとんどは、母体となった「WE-407/23」を踏襲している。
型式は、ダブルナイフエッジ・スタティックバランスのJ字形ユニバーサル型。全長311mmで有効長は233mm。オーバーハング12mm。トラッキングエラーは内周にて0度。オフセットアングル18°。付属ヘッドシェルの素材などは現在検討中だという。
使用可能カートリッジ自重については、標準ウエイトでオルトフォンのSPU型のほとんど(33.5gまで)がOKである。なお、本機は三軸完全バランス型(X、Y、Z軸が完全に一点に交わる方式)であるため、カートリッジ交換の度にラテラルの調整が必要である。そのためのラテラルバランサーが装備されている。最高精度を訴求する場合は是非とも調整されたい。
針圧調整はメインウェートとカウンターリングで行う。インサイドフォースキャンセラー(アンチスケーティング)は正確な動作をする糸掛け方式で自動針圧微増機能も併せ持つ。これは針先がレコードの内周に移動すると同時に針圧が機械的に補正され常にトレーシングを安定させる補助的機能だ。具体的には、最内周で針圧は10%増しとなる。無論、アームリフターは装備されている。
フォノケーブルについては、母体の「WE-407/23」と同様に付属しない。しかし、アームスタンドの底部に5Pin/DINの入力端子が組み込まれているから、その入力端子に対応した5Pin/DINプラグを装着したタイプを使用目的に沿って選択すればいい。
SAECの製品でいえば、「SCX-5000シリーズ」から選択すれば、例えばMC型カートリッジ出力のバランス伝送・増幅など様々な使用目的に対応することができる。なお、パイプアーム内部の配線(導体)材は現在鋭意検討中とのことだ。個人的にはPC-triple Cの採用が好ましいと思っているが果たしてどうなるだろうか?
「WE-4700」は年内の発売予定。価格は未定だが100万円前後とのこと。高価だが、アナログレコード再生の究極のクオリティを目指す人達には極めて魅力的なトーンアームで“一生モノ”といっても過言ではなく、内外の高級/超高級型ターンテーブルにまさにジャストフィットする。とにかく、現在は製品化へ向けて鋭意研究・開発中ということだが実際の発売が待たれる。
(藤岡誠)