従来機からの変更点を解説
【TIAS】全てが変わった! B&W「800 D3シリーズ」の詳細を開発者が語る
ディーアンドエムホールディングスは、「2015東京インターナショナルオーディオショウ」のマランツブースにて、Bowers & Wilkins(B&W)の新800 Diamondシリーズ「800 D3」を国内初披露(関連ニュース)。25日には、英B&W ステイニング研究施設のプロダクトマネージャーであるMartial Rousseau氏が登場。マランツのサウンドマネージャーである澤田龍一氏と共に800 D3シリーズの詳細について講演を行った。
■ダイアモンドトゥイーターとスピーカー端子以外の全てが新規設計
「800 D3」の“D3”とは、ダイアモンド・トゥイーター採用モデルの第三世代の意。しかし澤田氏によれば「800 D3シリーズと従来の800 Dimamondシリーズで共通しているのはダイアモンド・トゥイーターとスピーカー端子部くらい。その他は全てが新規で設計が行われています」とのこと。ユニットから筐体、クロスオーバー回路に至るまで、今回の800 D3シリーズにはB&Wの革新的な技術が徹底的に盛り込まれた。
■ミッドレンジにはケブラーに替えて「コンティニウムコーン」を採用
中でも大きな変更点となったのは、ミッドレンジ・ユニットを同社が1974年から用いてきたケブラーコーンに替えて、「コンティニウムコーン」と呼ばれる新型へと刷新したことだ。コンティニウムコーンは、ケブラーコーンはもちろん、一般的なコーン素材と比べて非常に柔らかい。澤田氏は「ふにゃふにゃ」と表現していたが、実際に両方のコーンを触り比べてみると、いかに柔らかいかが分かった。ちなみに「コンティニウム」とは「連続性」という意味だ。
なぜこの非常に柔らかいコンティニウムコーンが採用されたのか。ケブラーを含む通常の固いコーンの場合、ユニットコーンがピストンモーションするとき、再生周波数が高くなるにつれてピストンモーションのスピードに追いつかなくなり、変形が始まる。しかし、この「ふにゃふにゃ」なコンティニウムコーンでは、変形を防ぐようになり、かえってコントロールしやすいのだという。
また、ケブラーコーンは信号が入ったときの立ち上がりは非常に良いものの、「信号がなくなったときに少し残ってしまう」という問題があった。しかしコンティニウムコーンでは、例えばインパルス信号を入れたときにケブラーと同様の立ち上がりの良さを実現しつつ、立ち下がりも正確に再現することが可能になるという。
このように正確なインパルス応答が再現できるようになったことで、ケブラーコーンで感じられるような音のカサつきや色づきを排除することができたのだとという。
またミッドレンジを収めるフレームのデザインも変更。新しいフレームはオールアルミ製で、従来より軽くなり、さらにリブを増やした構造となっている。澤田氏は新旧のフレームをハンマーで叩くパフォーマンスを行ったが、従来のフレームは叩くと「キン」と甲高い音がするのに対して、新フレームは叩くと「コン」と乾いた音がして、鳴きがほとんどない。「この違いからも変更の意図は十分おわかりいただけるでしょう」と澤田氏。また、ミッドレンジのセンターキャップも従来の砲弾型のものから、「PM1」で初めて採用された防振プラグへと変更された。
■ミッドレンジのハウジングにはシングルピースのアルミを採用
各ユニットのネオジウムマグネットの磁力も強化された。「ネオジウムマグネットといっても、実は様々なグレードがあります。数字が上がるほどパワーが上がるのですが、従来モデルは一般的なスピーカーでも用いられる「35S」というものでした。それが今回のミッドレンジでは「40S」、トゥイーターでは「52S」というグレードのものを用いています。同じ体積でもエネルギーは倍近くあるのです」(澤田氏)。
ミッドレンジが収まっている円形のハウジング部は外から見ると従来モデルより細身にすることで強度は向上させたが、内容積は変わらないとのこと。特筆すべきはハウジングの素材の変更で、現行品はインパクト成形の樹脂であったのに対して、新モデルではシングルピースのアルミニウムとなった。重さは従来の8.5kgから17kgへとアップ(802 D3の場合)。内部はジェット機のエンジンのようなタービンヘッド構造となっている。このハウジングはアルミの鋳物なのだが、内部はふくらみのある構造的なので鋳物(ダイカスト)では製造できないのだという(金型が抜けないため)。そこで内部だけ砂型で製造されているのだという(砂型なので、成型の後に型を壊して抜ける)。
■コンピューター解析を用いた「TMD」により共振を徹底的に排除
ちなみにこのハウジングはアルミなので、叩けば当然鳴く。そこで共振周波数の反対側に共振する金属を付加することで共振を抑えるTMD(チューンドマスターダンピング)という手法が用いられている。このTMDは本機の随所に用いられているという。「逆共振を計算してTMDを行うためには、コンピューターアナリシスが不可欠です。これは経験と勘ではできないものです」(澤田氏)。
■ウーファーも大幅に強度向上を実現
一見従来機と変わらないように見えるウーファーコーンにも、大きな変更が加えられたとのこと。従来のウーファーコーンはサイド・背面共にストレートになっているが、800 D3ではサイドがストレートで、背面は曲面になっている。こうした形状を採用することで強度向上が実現できたとのこと。
ウーファーコーンは発泡体の裏表にファイバーコーンを貼り付けた構造となっているのだが、この中央の発泡体も変更。従来用いられていたロハセル素材ではシート状で、成型はできるが厚さに変化が加えられないので、これとよく似た別の発泡体の樹脂を採用しているという。
■トゥイーターを収めるハウジングには無垢アルミ削り出しを採用
トゥイーターについては、前述のようにダイアモンドドーム・トゥイーターを引き続き採用。しかし、トゥイーターの振動板以外は全て新規設計が行われたという。まず、従来ではマグネットを4個使われていたが、前述のように1つあたりのマグネットが強化されたため、3個に変更。
ここでも大きく変更されたのがトゥイーターを収める円錐型のハウジング。従来もアルミと亜鉛の合金を採用することでかなりの質量と強度を持っていたが、それなりに鳴きがあったという。これを800 D3ではこのハウジングを無垢のアルミからの削り出しとすることで剛性を格段に向上させ、鳴きを徹底的に排除している。ここでも澤田氏はハンマーで叩いて鳴きの無さをアピールしていた。また、ダイアモンドドーム・トゥイーターのグリルを強化して、ドームの損傷を防止している。
■ネットワークにも革新的技術を採用
最後にネットワークについても説明が行われた。ネットワークは背面の分厚いアルミ板に取り付けられており、基本的なクロスオーバー周波数やスロープには変更がなく、大型パーツも踏襲している。一方で抵抗はより高品位なものに変更。さらにネットワーク部のコンデンサーに、小容量コンデンサーを取り付けるという手法を用いて高域特性を向上させている。
澤田氏によれば、この手法はこれまで他メーカーのスピーカーでも用いられてきたものだが、近年では、実際に用いられる例はまれになっていた。なぜなら、この方法は「トゥイーターを足す」ような高域の向上効果が得られる反面、まさに「音が2ウェイになる」という副作用があり、音色が繋がらなくなるという問題があるからだという。しかし800 D3ではその効果の幅をあえて抑えて「スーパートゥイーター的に用いる」ことで、「音が2ウェイになる」という副作用を回避し、シームレスなサウンドを実現できた。
ちなみに今回の講演は約1時間だったが、800 D3シリーズで更新された技術はあまりにも多く、紹介できたのはごく一部とのこと。詳細については、10月6日に開催される発表会レポートでお伝えしたい。
■ダイアモンドトゥイーターとスピーカー端子以外の全てが新規設計
「800 D3」の“D3”とは、ダイアモンド・トゥイーター採用モデルの第三世代の意。しかし澤田氏によれば「800 D3シリーズと従来の800 Dimamondシリーズで共通しているのはダイアモンド・トゥイーターとスピーカー端子部くらい。その他は全てが新規で設計が行われています」とのこと。ユニットから筐体、クロスオーバー回路に至るまで、今回の800 D3シリーズにはB&Wの革新的な技術が徹底的に盛り込まれた。
■ミッドレンジにはケブラーに替えて「コンティニウムコーン」を採用
中でも大きな変更点となったのは、ミッドレンジ・ユニットを同社が1974年から用いてきたケブラーコーンに替えて、「コンティニウムコーン」と呼ばれる新型へと刷新したことだ。コンティニウムコーンは、ケブラーコーンはもちろん、一般的なコーン素材と比べて非常に柔らかい。澤田氏は「ふにゃふにゃ」と表現していたが、実際に両方のコーンを触り比べてみると、いかに柔らかいかが分かった。ちなみに「コンティニウム」とは「連続性」という意味だ。
なぜこの非常に柔らかいコンティニウムコーンが採用されたのか。ケブラーを含む通常の固いコーンの場合、ユニットコーンがピストンモーションするとき、再生周波数が高くなるにつれてピストンモーションのスピードに追いつかなくなり、変形が始まる。しかし、この「ふにゃふにゃ」なコンティニウムコーンでは、変形を防ぐようになり、かえってコントロールしやすいのだという。
また、ケブラーコーンは信号が入ったときの立ち上がりは非常に良いものの、「信号がなくなったときに少し残ってしまう」という問題があった。しかしコンティニウムコーンでは、例えばインパルス信号を入れたときにケブラーと同様の立ち上がりの良さを実現しつつ、立ち下がりも正確に再現することが可能になるという。
このように正確なインパルス応答が再現できるようになったことで、ケブラーコーンで感じられるような音のカサつきや色づきを排除することができたのだとという。
またミッドレンジを収めるフレームのデザインも変更。新しいフレームはオールアルミ製で、従来より軽くなり、さらにリブを増やした構造となっている。澤田氏は新旧のフレームをハンマーで叩くパフォーマンスを行ったが、従来のフレームは叩くと「キン」と甲高い音がするのに対して、新フレームは叩くと「コン」と乾いた音がして、鳴きがほとんどない。「この違いからも変更の意図は十分おわかりいただけるでしょう」と澤田氏。また、ミッドレンジのセンターキャップも従来の砲弾型のものから、「PM1」で初めて採用された防振プラグへと変更された。
■ミッドレンジのハウジングにはシングルピースのアルミを採用
各ユニットのネオジウムマグネットの磁力も強化された。「ネオジウムマグネットといっても、実は様々なグレードがあります。数字が上がるほどパワーが上がるのですが、従来モデルは一般的なスピーカーでも用いられる「35S」というものでした。それが今回のミッドレンジでは「40S」、トゥイーターでは「52S」というグレードのものを用いています。同じ体積でもエネルギーは倍近くあるのです」(澤田氏)。
ミッドレンジが収まっている円形のハウジング部は外から見ると従来モデルより細身にすることで強度は向上させたが、内容積は変わらないとのこと。特筆すべきはハウジングの素材の変更で、現行品はインパクト成形の樹脂であったのに対して、新モデルではシングルピースのアルミニウムとなった。重さは従来の8.5kgから17kgへとアップ(802 D3の場合)。内部はジェット機のエンジンのようなタービンヘッド構造となっている。このハウジングはアルミの鋳物なのだが、内部はふくらみのある構造的なので鋳物(ダイカスト)では製造できないのだという(金型が抜けないため)。そこで内部だけ砂型で製造されているのだという(砂型なので、成型の後に型を壊して抜ける)。
■コンピューター解析を用いた「TMD」により共振を徹底的に排除
ちなみにこのハウジングはアルミなので、叩けば当然鳴く。そこで共振周波数の反対側に共振する金属を付加することで共振を抑えるTMD(チューンドマスターダンピング)という手法が用いられている。このTMDは本機の随所に用いられているという。「逆共振を計算してTMDを行うためには、コンピューターアナリシスが不可欠です。これは経験と勘ではできないものです」(澤田氏)。
■ウーファーも大幅に強度向上を実現
一見従来機と変わらないように見えるウーファーコーンにも、大きな変更が加えられたとのこと。従来のウーファーコーンはサイド・背面共にストレートになっているが、800 D3ではサイドがストレートで、背面は曲面になっている。こうした形状を採用することで強度向上が実現できたとのこと。
ウーファーコーンは発泡体の裏表にファイバーコーンを貼り付けた構造となっているのだが、この中央の発泡体も変更。従来用いられていたロハセル素材ではシート状で、成型はできるが厚さに変化が加えられないので、これとよく似た別の発泡体の樹脂を採用しているという。
■トゥイーターを収めるハウジングには無垢アルミ削り出しを採用
トゥイーターについては、前述のようにダイアモンドドーム・トゥイーターを引き続き採用。しかし、トゥイーターの振動板以外は全て新規設計が行われたという。まず、従来ではマグネットを4個使われていたが、前述のように1つあたりのマグネットが強化されたため、3個に変更。
ここでも大きく変更されたのがトゥイーターを収める円錐型のハウジング。従来もアルミと亜鉛の合金を採用することでかなりの質量と強度を持っていたが、それなりに鳴きがあったという。これを800 D3ではこのハウジングを無垢のアルミからの削り出しとすることで剛性を格段に向上させ、鳴きを徹底的に排除している。ここでも澤田氏はハンマーで叩いて鳴きの無さをアピールしていた。また、ダイアモンドドーム・トゥイーターのグリルを強化して、ドームの損傷を防止している。
■ネットワークにも革新的技術を採用
最後にネットワークについても説明が行われた。ネットワークは背面の分厚いアルミ板に取り付けられており、基本的なクロスオーバー周波数やスロープには変更がなく、大型パーツも踏襲している。一方で抵抗はより高品位なものに変更。さらにネットワーク部のコンデンサーに、小容量コンデンサーを取り付けるという手法を用いて高域特性を向上させている。
澤田氏によれば、この手法はこれまで他メーカーのスピーカーでも用いられてきたものだが、近年では、実際に用いられる例はまれになっていた。なぜなら、この方法は「トゥイーターを足す」ような高域の向上効果が得られる反面、まさに「音が2ウェイになる」という副作用があり、音色が繋がらなくなるという問題があるからだという。しかし800 D3ではその効果の幅をあえて抑えて「スーパートゥイーター的に用いる」ことで、「音が2ウェイになる」という副作用を回避し、シームレスなサウンドを実現できた。
ちなみに今回の講演は約1時間だったが、800 D3シリーズで更新された技術はあまりにも多く、紹介できたのはごく一部とのこと。詳細については、10月6日に開催される発表会レポートでお伝えしたい。